本年度は、種特異性の高い抗原蛋白質の選定を目的として、合成ペプチドを用いた臨床実験を行った。合成ペプチドは他の研究でオジロジカにおける抗体産生が報告されているブタ透明帯糖蛋白質の一部であるpZP1のB細胞エピトープ領域に基づいて設計し、キャリアー蛋白質としてKLH(Keyhole limpet hemocyanin)を結合させた。ワクチン投与実験には、飼育下のエゾシカ3頭を用い、うち1頭をコントロールとした。投与は2週間間隔で4回行い、一回につき合成ペプチドワクチン500μgとアジュバンド(Titer Max Cold ; Titer Max)400μlを混合したエマルジョンを4等分し、左右下肢および臀部の筋肉内に投与した。投与と同時に採血を行い、ELISAによる抗体価の測定に用いた。最終投与後3日目に大量採血を行い、得られた血清を免疫組織化学的解析に用いた。 抗体価測定の結果、投与個体において著しい抗体価の上昇が認められた。免疫組織化学的解析は、ブタ卵巣およびエゾシカ卵巣への抗体結合の確認を目的に行った。その結果、ブタ卵巣への結合は認められたが、エゾシカ卵巣への結合は認められなかった。 ここまでで得られた結果を考察するとエゾシカとブタでpZP1のB細胞エピトープのアミノ酸配列が異なるという仮説がたてられる。これは、ZP1のB細胞エピトープの種特異性を示唆するものであるため、今後は、エゾシカにおけるZP1のB細胞エピトープの配列を明らかにすることで、エゾシカ避妊ワクチン開発に向けた種特異的抗原蛋白質の選定を行う。現在はエゾシカ卵巣組織を材料としてRT-PCRを行い、エゾシカZP1のB細胞エピトープの遺伝子を増幅し、その塩基配列を同定する作業を行っている。
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