鳥類には雌性生殖器内に侵入した精子を長期間生存させる為の精子貯蔵管(sperm storage tubule; SST)が、卵管の子宮膣移行部(utero vaginal junction; UVJ)及び漏斗部に備わっている。UVJのSSTは主要な精子貯蔵組織であり、漏斗部のSSTは二次的な精子貯蔵組織と考えられている。これまでの研究で、SST内に侵入し、貯蔵されている精子の放出は放卵周期とシンクロナイズしており、排卵のトリガーとして働くホルモン、プロゲステロンの刺激により誘起されること、精子貯蔵管にはプロゲステロン膜受容体が存在すること、プロゲステロンの刺激により、精子貯蔵管の形態が変化すること等を明らかにし、プロゲステロンが休眠中の精子の覚醒・再活性化に重要であることを明らかにした。本研究では、精子の膜表面に存在し、精子の運動を制御する分子を探索した。 精子の膜分画に対するモノクローナル抗体ライブラリーを作成し、受精を阻害する抗体を15種類得た。これらの抗体の認識する抗原は、精子頭部や尾部に限定していたり、精子全体に存在したりと局在にバリエーションが認められた。また、精子の膜分画を2次元電気泳動で分離し、LC-MS/MS解析とMASCOT検索によりいくつかの抗原を決定した。 精子貯蔵管の抽出物を添加した培養液でウズラの射出精子を培養したところ、精子の鞭毛の振幅幅が減少し、運動性の継続時間が延長することが分かった。また、運動継続時間の延長効果はブタの精巣上体精子でも確認され、貯蔵管の抽出物は、種を超えた精子の運動制御効果を持つことが示唆された。
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