研究課題
生理学的・栄養学的情報量の少ない野生動物、特に鯨類の飼育管理は極めて不十分で、人工飼育下では多くの鯨類がその天寿を全うすることができない(平成20年9月から10月にかけて四国新聞など9社で報道)。本研究は鯨類における血液、尿及び筋肉内のアミノ酸組成に関する基盤を構築し、その健康管理に応用することを第一の目的として、バンドウイルカ、カマイルカ、ハンゴンドウ、およびオキゴンドウの血漿アミノ酸、さらにバンドウイルカの尿中アミノ酸の解析を行った。その結果、それぞれの鯨類間の比較において、25アミノ酸中4~8アミノ酸に有意差がみられ、陸棲哺乳類の代表としてのマウスと比較において、25アミノ酸中11~12アミノ酸に明らかな差があった、特に、鯨類の血漿3-メイルヒスチジンは、マウスの約50倍の高値を示した。従来、3-メイルヒスチジンは、陸棲哺乳類では、筋たんぱく質分解の指標として広く利用されてきたもので、通常尿中に排泄される。しかし、鯨類では、尿中への排泄はごくわずかで、その大半が再吸収され、結果的に陸生哺乳類の50倍以上の濃度で血中に維持されている。この3-メイルヒスチジンは抗酸化作用を有することから、海棲哺乳類では、酸素を効率よく取り込み、かつ保持する必要がある。一方、酸素の持つ酸化作用や、代謝のプロセスで発生する活性酸素種を極力抑える必要がある。3-メイルヒスチジンはまさに、この抗酸化作用に関わるもので、鯨類の血漿中に高度に維持されていることは、生理学的に極めて合理的なものである。数千万年前、陸から海に戻ったのち、海に適応した結果とも考えられ、こうしたアミノ酸組成の何らかの破たんが鯨類の「ストランディング」の一因と考えられる。さらに、既に得たイルカ等の鳴音変化と合わせ評価することより、少なくとも人工飼育下の鯨類の健康状態を的確に判断できる。
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http://ohta-lab.ercaz.jp/