我々は、病原菌由来のタンパク質性エリシターにより、培養細胞に同調的なプログラム細胞死を伴う感染防御応答が誘導される実験系を構築し、そのシグナル伝達系の解明を進めて来た。研究の過程で見出したCa^<2+>活性化型プロテインキナーゼ(Kurusu et al.Plant Physiology 2010)と相互作用する因子を探索したところ、オートファジー関連因子が単離された。そこで本研究では、タバコ培養細胞BY-2におけるオートファジーの可視化実験系を構築し、卵菌由来のタンパク質cryptogeinにより誘導される感染防御応答とオートファジーとの関係を解析した。オートファゴソームに局在するユビキチン様タンパク質ATG8とYFPとの融合タンパク質を発現させたBY-2細胞を作出したところ、細胞内にパッチ状の蛍光が観察された。このオートファゴソーム様の蛍光は、オートファジーが亢進される糖飢餓条件下で著しく増加し、液胞膜プロトンポンプ阻害剤処理により、液胞内への蓄積が観察された。細胞をcryptogeinで処理すると、オートファゴソーム様の構造体の急激な減少が見られ、感染防御応答に伴い、オートファジーが抑制される可能性が示唆された。一方、細胞をさまざまなオートファジー阻害剤で前処理した細胞では、cryptogeinにより誘導される過敏感細胞死や活性酸素種の積極的生成、防御遺伝子発現等の一連の防御応答が顕著に亢進されていた。これらの結果は、オートファジーが感染防御応答を負に制御する重要なシステムである可能性を示唆しており、分子機構の解明を進めている。さらに、この知見に基づいて、シロイヌナズナ、イネ、タバコなどの植物体を用いて、オートファジーと感染防御応答との関連の研究すると共に、新規植物防除剤の探索を進めている。
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