分子内にATP結合部位を有しATPの加水分解エネルギーを駆動力とするATP binding cassette(ABC)トランスポーターは、医薬品の細胞内から細胞外への排出に働くことで、消化管吸収や臓器への分布、ひいては医薬品の薬効、毒性に大きな影響を与える。本研究はABCトランスポーターによる薬物のくみ出し輸送を蛍光シグナルに変換して測定する実験系の確立を目的とする。本年度はその第一段階として、ABCトランスポーターの中でも生体内での役割が最も解明され、医薬品開発において重要視されているP-glycoprotein(P-gp)に着目し、その輸送評価系の確立を試みた。ミトコンドリア内カルシウム濃度を測定するための蛍光プローブとしてpericam変異体(pericam-mt)を用い、P-gpを過剰発現させたLLC-PK1細胞(LLC-PK1/P-gp)およびその親株(LLC-PK1)にpericam-mt遺伝子を一過性に導入した。Pericam-mtはカルシウムとの結合により蛍光強度が変化するタンパク質pericamに、ミトコンドリア移行シグナルをfusionさせたタンパク質である。蛍光強度は励起波長を480と420nmとの間でリアルタイムに切り替えることで両者の比を計測した。この細胞系へP-gpの代表的基質薬物として知られるquinidineを添加したところ、LLC-PK1/P-gpにおいてpericam-mtに由来する蛍光強度比の上昇が見られた一方、LLC-pK1ではそのような蛍光強度比の上昇は認められなかった。一方、同じ細胞系にquinidineを添加した後の経細胞輸送を測定したところ、LLC-PK1/P-gpにおいてはbasalからapical方向への高い輸送が認められた一方、LLC-pK1ではそのような方向性のある輸送は認められなかった。以上より、pericam-mtを一過性に発現させたLLC-PK1/P-gpにおいてP-gpの機能的発現が認められること、pericam-mtの発する蛍光強度比の上昇を測定することでP-gpによる輸送活性が評価可能であることが示された。
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