本研究の目的は、細胞分析・分取で広く使われるフローサイトメトリー(FCM)に代わる、元素情報をも得られる新しい技術の開発である。現行のFCMでは、細胞を含む液滴の流れをレーザ照射して情報を得る。散乱強度からは個々の細胞サイズや内部構造が得られ、色素標識の発光からは細胞内の特定の蛋白質や核酸量に関する相関分布が得られる。これに対し本提案では、上記に加え種々の元素・化学状態間の相関が得られることになる。これは、励起光源に従来のレーザでなく高輝度X線を用い、蛍光X線を同時測定することで実現できる。これにより、生体細胞群における元素・状態分布に関する分析・分取が統計的な信頼性をもって可能となり、生体情報に関する新たなデータベースを構築できる期待がある。本年度は、本測定に必要な「装置とシステム」の設計と作製を行い、また上記の前提となる基礎データの取得(物質からの元素選択的シグナル検出と見積もり)を行った。具体的には、本研究で本質的な課題は、フローシステムと、試料周辺の条件出しが鍵である。そこで、試料の導入、X線照射、および検出器(蛍光X線)部を含む全体(Heパージを要する)の設計を行い、その作製を行った(フロー末端部を除き、3月納入)。また、液滴の落下とX線照射に同期して、液滴からの蛍光X線シグナルをピーク分離・積分し、相関プロファイルを描くためのソフトウェア開発も同時に行った(3月納入)。これらとは別に、SPring-8のビームラインにおいて、疑似試料からの蛍光X線を(生体試料は標準試料として定量性が曖昧なため、まずは無機試料による)、エネルギー分散型の検出器でとらえ定量する試行を行った(現在、S/N比やバックグラウンド、計数率の検討中である)。なお、国際出願した本案の特許が審査過程に入り、煩雑な係争中である。
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