生命現象の包括的な理解を目指す上で、生きている状態の生体内で、リアルタイムかつ高感度に様々な事象を観測することは極めて重要である。このような観測を実現する手法として、近年の生物・医学領域では、蛍光法を用いる手法が汎用され、数多くの優れた成果を挙げている。本研究では、ラットやマウスなどの動物個体内において生体分子可視化ツールとして機能し生命現象の解明や医用診断薬開発に繋がる可能性を秘めている近赤外蛍光プローブの創製を目的として、新規の近赤外蛍光色素の創製を目指した。平成21年度には新たな研究展開として、シアニン色素でも通常の左右対称型のシアニン色素骨格ではなく左右非対称型のシアニン色素骨格に着目し、様々な左右非対称シアニン色素の合成を行い、その分子構造を分子設計することで650から900nmの様々な吸収・蛍光波長を有する蛍光色素が開発できることを見出した。これら左右非対称型のシアニン色素骨格は、左右非対称という分子構造から容易にタンパク質やペプチド分子などにラベル化可能である。平成22年度は、これら知見を活かし、スタッキング等を用いて特定の生体分子を認識して蛍光が変化する「蛍光プローブ」へと誘導化を行った。その標的生体分子として、Matrix metalloproteinase (MMP)に着目した。MMPは、がん、動脈硬化、関節リウマチ、パーキンソン病など様々な疾患でその発現が確認されている。そのためMMP活性を検出することは、これら疾患の解明において非常に有用となる。開発した新たな蛍光プローブを培養細胞および動物個体に応用した結果、MMP活性部位において蛍光団が細胞内へと導入され、高いS/N比でMMP活性を可視化することに成功した。これら知見は、今後のMMPおよびその他の細胞外プロテアーゼ活性検出蛍光プローブの分子デザインにおいて有用な指針になると考えている。
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