研究概要 |
アルツハイマー病(AD)発症の主因の一つとされるアミロイドβペプチド(Aβ)。このAβを脳内で分解する主要プロテアーゼである「ネプリライシン」の活性制御機構を明らかにするため、我々が構築したスクリーニング法(Nature Med.11, 434-439, 2005)を用い、ネプリライシン活性制御因子の探索を行った。その結果、NGF, BDNF, NT-3, NT-4などの神経栄養因子ファミリーにより、ネプリライシンの活性が著しく低下する事が確認された。この活性低下には、ネプリライシンの発現低下は関与していないことも確認しており、ネプリライシンの局在、または生物学的半減期の変化が関与していると推察される。次に、神経栄養因子ファミリーによるネプリライシンの活性低下機構の詳細を検討するために、細胞内情報伝達系の各種阻害剤等を用いて解析を行った結果、神経栄養因子シグナルの下流で作用する、MAPキナーゼ経路が重要な役割を果たしていることも確認された。すなわち、能動的なネプリライシン活性抑制機構の一端を明らかにすることができた。本研究の趣旨でもある、抗AD創薬のための標的分子を明らかにするためには、さらに詳細にネプリライシンの活性制御機構を明らかにする必要がある。上述のように、MAPキナーゼの下流にリン酸化によるネプリライシンの活性制御が存在することが示唆され、またネプリライシン自身もその細胞質ドメイン(N末端)にリン酸化による制御を受けると推定されるセリン/スレオニン残基を5カ所有していることから、これらセリン/スレオニン残基をアラニンに置換したネプリライシンの発現ベクターを作成し、その効果を検討した。その結果、現在までに、ある特定のセリン/スレオニン残基が、ネプリライシンの活性制御に関与していることが明らかとなった。現在、さらに詳細な解析を進めている。
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