遺伝子発現を負に調節するmicroRNA(miRNA)が血中に安定に存在し、様々な疾患の非侵襲性のバイオマーカーとなることで注目を集めている。しかし、罹患する以前に、食事や飲酒、服薬、環境物質への暴露などによって血中miRNAの発現が変動するか不明である。本研究では、多くの人が暴露される喫煙によって血中miRNAの発現が変動するか明らかにすることを目的とした。非喫煙者7名と喫煙者11名の血中miRNAの発現をTaqMan Human microRNA arrayにより網羅的に測定したところ、両者の発現プロファイルは大きく異なることを明らかにした。血中miRNAの発現変動は組織中での変化を反映したものであり、組織中での変動が疾患発症の起因となっている可能性が考えられた。文献およびデータベース解析の結果、喫煙者で高値を示したmiRNAは、がんや細胞周期に関わる遺伝子を制御し、喫煙に関連する病態において発現が変動するものであった。その後禁煙した4名の血中miRNAの発現プロファイルは非喫煙者のものと同様のパターンを示した。すなわち、喫煙者で高値を示した多くのmiRNAの発現が禁煙により低下し、非喫煙者の発現量に近似することを明らかにした。そのうちの2名がタバコ1本を喫煙し、20分後の血中miRNAの発現を測定したところ、ほとんどのmiRNAの発現には変動が認められなかった。従って、継続的な喫煙が血中miRNAの発現を上昇させ、喫煙に関連する病気を引き起こしている可能性が考えられた。
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