昨年度までに、有機カチオントランスポータOCT2の阻害によって、シスプラチンの腎毒性を軽減できることを明らかにした。本年度は、さらに排出型トランスポータMATE1の影響を検討した。Mate1ノックアウトマウスにシスプラチンを投与すると、野生型に比べて強い腎毒性が観察された。さらに、シスプラチンの腎蓄積の上昇も観察された。また、Mate1阻害薬ピリメタミンの同時投与によっても腎毒性は増強された。したがって、遺伝子多型や薬物間相互作用によるMATE1の阻害抑制は、シスプラチンを用いた化学療法時に腎毒性の危険性を増大させることが示唆された。 また、OCT2阻害薬共存による抗腫瘍効果への影響を検討した。様々な肺がん由来細胞においてOCT2の発現はほとんど観察されず、OCT2阻害薬シメチジン共存による細胞毒性への影響は認められなかった。また、ヒトがん由来cDNAパネルを用いて、各種腫瘍組織におけるOCT2発現変化を検討したが、ほとんどの細胞でOCT2の発現は認められなかった。したがって、OCT2の阻害薬はシスプラチンの抗腫瘍効果への影響はほとんどないことが明らかとなった。 以上より、シスプラチンの腎毒性発現には、血管側に発現する有機カチオントランスポータOCT2が関与することが示された。一方、排出トランスポータMATE1はシスプラチン腎症の保護因子となり、薬物間相互作用等におけるMATE1の機能阻害は、腎毒性の危険因子の一因となることが示唆された。
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