研究概要 |
これまでの10年は、GFP technologyの発達によって、光を使って生きた細胞内の分子や活性を観察できるようになった。次のステップは、光を使って生きた細胞の機能を外部から操作することで、細胞内のシグナルシステムのより深い理解を目指すことであると考えている(Gorostiza and Isacoff,Science 322:395-399,2008)。 本研究は、ミドリムシで機能している光感受性蛋白を動物に遺伝子導入することによって、動物個体のシグナル伝達を光で操作する試みが新しい点である。具体的には、光感受性adenylyl cyclaseのトランスジェニックマウスを作成し、光をあてることで細胞内のcAMP濃度を操作できるようにする。目的の達成のため、当初はミドリムシphoto-activated adenylyl cyclase(PAC)を用いる予定であった。しかし、2009年5月に細胞内cAMPを光制御できる全く新しい、有力な分子が発表された(Nature.2009,458(7241):1025-9)。そのため、ミドリムシPACと新しい分子のどちらが最も適しているかをマウスを作成する前にin vitroで検討する必要が生じた。このため、トランスジェニックマウスの作製が遅れ、予算の繰り越しが必要となった。繰り越し分は主にマウスの飼育とそのcharacterizationのための消耗品である。検討の結果当初計画どおり、ミドリムシPACの方が優れていた。更にPACに膜移行シグナルを付けるか、抗体による認識tagを付けるか、蛍光蛋白との共発現についてもin vitroで検討した。この結果を踏まえ一部の神経でPACとRFPを共発現するトランスジェニックマウスを作製した。以上、予算繰越の結果、繰越の原因となった問題点を解消しただけでなく、cAMPの光制御と神経回路網の操作のためのトランスジェニックマウス導入遺伝子の設計がよりよいものに改善された。
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