脆弱な脳神経組織からの伝達物質遊離を検討する方法として、脳組織を低酸素状態にすることなく長時間生存させることのできる超微量表面還流装置を開発した。今年度はこの装置を用い、^3H-dopamineを取り込ませたラット線条体スライス標本に対する電気刺激およびニコチンの影響を調べた。電気刺激を20秒間、10分間隔で繰り返し与えたところ、きわめて再現性のある一過性の^3H-dopamine遊離が30分以上にわたって観察された。また、10nM以上のニコチンを30秒間10分間隔で還流したところ、ニコチンの濃度に依存した一過性の^3H-dopamine遊離も観察された。電気刺激による遊離は、tetrodotoxinで消失したが、ニコチンによる遊離は抑制されなかった。また、ニコチンによる^3H-dopamine遊離は、持続的にニコチンを還流することにより急速に減少し、その後、高濃度のニコチンを作用させても反応しなくなるなど著しい耐性を示した。ニコチンによる遊離は、ニコチン受容体遮断薬や全身麻酔薬などで抑制されたが、電気刺激による遊離は、全く影響を受けなかった。^3H-epibatidineを用いた結合実験で、全身麻酔薬はニコチン受容体のァゴニスト結合に全く影響しなかった。したがって、全身麻酔薬はアゴニスト結合部位に影響することなく、ニコチン受容体にアロステリックに結合してニコチン受容体機能を抑制すると考えられた。今後は、さらに検討を進め、脳神経組織に対する各種作用薬の薬理メカニズムを解明していきたい。
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