近年、神経保護作用を有する様々な因子が神経変性疾患治療に向けたシードドラッグとして見つかっている。しかし、その多くにおいて血液-脳関門の通過が問題となり脳実質への送達が困難である。そこで、脳実質への効率的・特異的な薬物送達方法が見つかれば、神経変性疾患の治療薬開発の飛躍的な進歩が期待される。一方、アルツハイマー病脳では、アミロイドβペプチド(Aβ)の神経細胞内外での異常蓄積、リン酸化タウタンパク質が神経細胞内で蓄積し形成される神経原線維変化、シナプス構造の破綻、さらには神経細胞死が病理学的所見として認められる。しかしながら、それぞれの病理所見の関連性については不明な点が多く残されている。今回の解析では、Aβが神経原線維変化の成熟化を促進し、さらにはアクチン重合調節因子を巻き込みシナプス破綻につながる可能性についてアルツハイマー病モデル遺伝子改変マウスやアルツハイマー病患者剖検脳を用いて示した。この結果は、これまで不明であったアクチン細胞骨格の破綻がアルツハイマー病脳で誘導されていることを示唆する発見であり、さらにはアルツハイマー病で認められる個々の病理所見の関連性、つまり、Aβが神経原線維変化やシナプス破綻の成熟化因子または発症因子として機能する可能性を示す重要な知見である。このように、アクチン重合を調節する化合物の脳内送達が新規アルツハイマー病治療薬の開発ターゲットに成りうる可能性が期待される。そこで、現在進行しているミクログリアを利用した血液-脳関門の通過用薬物封入体の作製時には、封入薬物としてアクチン重合に影響する様な化合物を含めて解析を進める予定である。
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