神経筋接合部(NMJ)の形成にはMuSKと呼ばれる受容体型チロシンキナーゼが必須の役割を担っている。最近、我々は細胞内のアダプター様分子であるDok-7がMuSKを細胞内から活性化することでNMJの形成を可能にしていることを発見した。さらに、MuSKを筋管全域に高発現させた場合とは異なり、筋管全域でのDok-7の高発現が正常部位(筋管中央部)でのNMJ形成を促進し、個体の運動機能に外形上の異常を生じさせないことを明らかにした。本研究はこれらの成果を背景に、Dok-7の発現や機能の増強によるNMJ形成不全型筋無力症の治療技術の開発に挑戦するものである。 上記の目的を念頭に、本研究ではNMJ形成不全型筋無力症のモデルマウスの樹立を目指した。当初計画した当該疾患の原因遺伝子のノックアウトマウスに変異型遺伝子のトランスジーンを導入する系では発現量の調節が難しく、変異型遺伝子のノックインマウスの作成を進めた。既に、ノックイン遺伝子座をヘテロにもつ個体の作成に成功している。また、並行して進めたアデノ随伴ウイルスを利用したDok-7発現ベクター(AAV-D7)については、既に高力価での調製に成功し、骨格筋への感染実験にも成功している。既に、正常マウスへの導入条件の至適化も終了し、上記モデルマウスが樹立でき次第、AAV-D7を用いた治療実験を展開する。他方、NMJの形成に必須のDok-7によるMuSKの活性化を正に制御する化合物の探索については有望な候補剤の特定には至っていない。そこで、我々が他の実験結果から予想している、筋管細胞内でDok-7によるMuSK活性化を負に制御する分子機構の解明に着手し、将来的には、その分子機構の負の制御剤によるMuSKの活性化技術の開発を目指す。
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