本年度は数理モデルの構築およびフィールド研究の準備を行った。 点状のマラリア媒介蚊の発生源を想定し、そこから発生した蚊は放射状にランダムに拡散しながら遭遇した人家に一定の確率で飛来するという仮定に基づいて、任意の発生場所から任意の家に飛来する蚊の数を、他の家への飛来も考慮しながら定式化した。次に村全体での人家の分布が分かっていて、かつ一部の家で蚊の飛来数が分かっている場合に1-3か所までの発生源の位置とそれぞれの地点での媒介蚊の発生数を最尤法と非線形シンプレックス法を用いて推定するためのプログラムを作成した。ベトナムの流行地における家ごとの蚊の採集数の既存データを用いて、実際に発生源の推定を行ったところ、雨期のデータでは1か所、乾期のデータでは3ヵ所の発生源が推定された。乾期のデータでは蚊が均一に発生するとした仮定した場合に比べてモデルのあてはまりのよさを示す尤度が大幅に上昇し、また、推定された発生源は媒介蚊幼虫がよく観察された地点に近かったことから、本モデルの有効性が確かめられた。 バングラデシュ東部のスリモンゴル郡のマラリア流行地の村を短期的に訪問し、情報収集および予備的な蚊の採集を行った。本調査地は広大な茶畑の内部に位置し、住民のほぼ全てが茶会社の従業員であるというユニークな村であった。住居は比較的狭い地域に集中し、生活様式は比較的均一であると考えられた。しかし予備調査では村の縁に近い家で多くハマダラカ属の蚊が採れる傾向が見られ、主な発生源は村の外側にあることが示唆された。 ハルマヘラ島における調査予定地については、ハサヌディン大学公衆衛生学部との会議によって、マラリア罹患率の周年変化、村ごとの違い等についての情報を得た。
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