本研究は、マラリア流行地における人家と媒介蚊の発生源の位置情報からコントロールにおいて重点をおくべき家を特定する数理モデルを開発し、それを検証することを目的としている。 本年度はバングラデシュ丘陵地におけるマラリア感染者の空間パターンを解析し、森林の被度、標高等の環境要因と民族、家屋構造等の社会要因の両方からマラリアの高リスク地域をある程度説明することに成功した。 また、地形データからマラリア媒介蚊発生源の分布を予測するためのモデル開発を試み、ケニア東部およびラオス東部のマラリア流行地のデータを用いてある程度の確度で水の保持を予測するモデルに組み入れるべき変数を選定した。標高、傾斜、Wetness Index (WI;上流の集水域の面積と傾斜のタンジェントの比)、500mおよび2kmの範囲で計算したTopographic position index(TPI;ある地点の標高と周囲の平均標高からのずれを標準偏差で割ったもの)が予測因子として選ばれた。2つのスケールのTPIの相互作用を加えるとモデルのフィットが改善した。これは大きなスケールでの窪地の中では小さなスケールでの谷が水を保持しやすいと解釈できる。 昨年度から引き続き、村内の一部の家屋で採集された成虫数から村全体の蚊の発生源の分布を予測するモデルの開発を続けている。昨年度に開発したシミュレーションモデルとは全く別のアプローチとして、局所的な蚊の密度を空間的自己相関を示すランダム効果として扱い、それを近傍の家屋数で割ったもので蚊の飛来数を予測する極めて単純な構造のモデルの定式化に成功した。ベイズ推定によって分布予測図を描くプログラムを開発中である。
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