本研究は、マラリア流行地における人家と媒介蚊の発生源の位置情報からコントロールにおいて重点をおくべき家を特定する数理モデルを開発し、それを検証することを目的としている。 本年度は、昨年度に引き続き地形データからマラリア媒介蚊発生源の分布を予測するためのモデルを開発した。標高は媒介蚊発生源の形成に強い影響を与えることが明らかであるが、調査地域での標高とリスクとの関係は標高が違う地域には直接適用できないという問題があり、これまでは標高を除外したモデルを検討していた。今回、標高を最低点からの差という相対値で表すことで一般化できるようになった。このためモデルを単純化できた。 一方、場所による蚊の発生量の違いを未知のままランダム変数として扱い、その効果を調整した上で環境変数や局所的な家屋の密度を固定効果とするモデルをベイズ統計の手法を用いて構築した。ベトナム南部のマラリア流行地の複数の村を含む地域におけるマラリア媒介蚊の採集データにこのモデルを適用したところ、ランダム効果なしのモデルでは有意な影響が検出できなかった局所的な家屋密度が有意な負の効果を示した。また半径500m程度の範囲内での家屋数を考慮したモデルがもっとも当てはまりがよかった。これは一つの村の狭い範囲に限定した解析結果と概ね一致する。このモデルをラオス南部のマラリア感染者およびマラリア抗体陽性者の分布、ケニア西部の蚊採集数およびマラリア患者のデータへの適用を試みて一定の成果を得た。
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