本研究は、ボルナ病ウイルス(BDV)の病原性を利用してグリア細胞、特にアストロサイトの未知なる機能の解明を行うものである。BDVは、感染個体に遅発性の神経疾患を誘導する。このウイルスは、感染によりアストロサイトの機能障害を誘導することが示唆されており、グリア細胞機能異常による神経疾患の発症モデルとして広く用いられている。BDV感染によるグリア細胞の機能異常とその分子機序を総合的に解析することで、新たな視点でグリア細胞機能の本質に迫ることができると考えた。また、グリア細胞の新機能のみならず脳神経疾患の発症に関連するグリア細胞の役割についても明らかになると考えられる。本年度は、BDVの神経病態モデルとしてグリア細胞にBDVの病原性遺伝子(P遺伝子)を発現するトランスジェニックマウス(P-Tg)を用いた解析を行った。まず、P遺伝子発現によるグリア細胞内での宿主遺伝子発現の変化について解析を行った。P遺伝子を発現させたC6グリオーマ細胞とGFPを発現させたコントロール細胞を作製し、これら細胞間の遺伝子発現の違いをcDNAマイクロアレイを用いて検討した。C6グリオーマ細胞においてP遺伝子の発現により68個の宿主遺伝子が有意な発現変化を示した。これらの遺伝子には、細胞外で機能する蛋白質をコードするものが多く含まれていた。一方、機能面ではその多くが組織の発生・再生に関与する遺伝子群に分類された。同定された遺伝子の中で、発現量の上昇が大きく、神経疾患との関連性が示唆されているIGFBP3に注目して解析を進めた。リアルタイムPCRを用いた解析の結果、BDV P-Tg脳由来グリア細胞においてもIGFBP3 mRNAの発現が顕著に増加していることが確認された。現在、IGFBP3の発現とグリア細胞の機能異常についての相関性を追求している。
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