本研究は、医療者、患者、患者家族間のコミュニケーションに注目し、会話データを収集し解析し、更に、コミュニケーションの新しいツールの開発を目的としている。 21年度は、患者家族から医師へのメール相談内容を情報工学的手法により解析した。白血病患者の母を持つ娘から医師への相談メール内容を用いて、その発言を時系列に配置し可視化した。可視化した図から、その内容と変遷と信頼関係の生まれ方に関して解析した。相互の信頼を得るためには互いに共感することが重要であることは、これまでの知見でも知られている。今回の解析では、同様の結果が得られたが、更に、共感を示す対象の種類と時間経過も重要であることが分かった。メール相談の前半に医師が相談者である患者家族へ共感を示している時ではまだ十分な信頼関係が結ばれていないが、後半に医師が患者へ共感を示すようになってから、医師と患者家族との相互の信頼関係が得られていた。そして、医師から患者への共感発言により患者家族が意識を患者へと向くようになっていた。以上より、医師と患者家族の間での信頼関係の構築には、相談者である患者家族から自身の感情の事だけではなく、患者家族から患者の心情に関して話してもらうように医師が導くことが大切であると分かった。 これまで医療界においては、患者家族に対してのコミュニケーションの解析はほとんど行われておらず、今回の結果が臨床現場において医療者が患者家族とのコミュニケーションを行う上で重要なツールとなると考えられる。
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