研究概要 |
近時、医療の崩壊という言説が飛び交うが、それらの言説は医療に対する局所的な批判ばかりで問題解決型の提言は少ない。本研究は、コモンズ理論を応用した医療問題の解決に向けたモデル提示のための基礎研究と位置づけ、生命倫理の視点を取り入れた実践的な医療社会学研究を行うことを目的とした。制度派経済学の領域で主張されてきた医療を社会的共通資本と見做し、自律した組織が管理・運営を行うというモデルを具体化する方法を探索することに重点を置く。研究計画に記載したとおり、平成21年度は、フェーズIとして伝統的コモンズの歴史・理論を整理し、次に、フェーズIIとして、環境社会学などで応用されているグローバルコモンズを理解することを掲げ、主に文献学を中心に概念の整理を行う作業に当たった。平成21年度を通して得られた成果は、コモンズという資源を継続的に共に利用するには、利用者が限定された中でのアクセスフリーの資源特性から生じる外部経済の問題を如何にして内部化するかという課題を克服できるかに集約される。「共有地の悲劇」の論文(Gハーディン,1968年)で、牧草地を例に利用者の利己的な行為がコモンズの崩壊を不可避的に引き起こすと主張したようなモデルだけで説明はつかない。個人と集団の行動原理が相反する状況を、資源の枯渇・再生産の過程を阻害せずに利益が得られる規範づくりを継続的に進めてきた事例が多く存在し、コモンズが維持されている事例があることも分かった。また、フェーズIIの環境問題などのグローバルなコモンズに関する問題については、市場経済を前提にした場合には過剰利用が生じ、効率性が失われるとの指摘が散見された。過剰利用を回避するには、現在価値を最大化するという最適化の問題に設定し、応分負担か分権的組織での直接管理の可能性が有効であるとの指摘が多いことが判明した。これらは一部であるが、平成22年度は、具体的に医療システムに応用できるかについて検討を進める。
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