研究概要 |
分子標的抗がん剤スニチニブは腎がん治療において良好な治療成績を示すが、骨髄毒性、心毒性、皮膚障害等の副作用が高い頻度で発現するため、標準投与量での治療継続が困難な症例が多い。昨年度、患者個別のスニチニブ投与設計法確立の基盤とするため、スニチニブおよびその活性代謝物を同時に測定する血中濃度解析法を新規に確立した。本研究では、このアッセイ系を用いて、臨床検体並びにin vitro実験におけるスニチニブの定量を試みた。 スニチニブ治療開始早期にグレード3-4の様々な副作用を呈した症例を経験した。当該患者(n=1)の服用後8日目の血中濃度を測定し、他の患者(n=4)の血中濃度プロファイルと比較したところ、スニチニブの最高血中濃度や薬物血中濃度-時間曲線下面積は約2.5倍大きかった。また、in vitroの輸送実験から、スニチニブは薬物排出ポンプBrest Cancer Resistant Protein(BCRP/ABCG2)の基質になることが判明した。BCRPは消化管上皮細胞の管腔側に発現し、薬物排出ポンプとして機能している。そこで、スニチニブの血中濃度を測定した患者のBCRP遺伝子の多型解析を実施したところ、副作用の多く発現した患者はABCG2 421C>Aのホモ型であったが、他の患者は野生型(n=3)ならびにヘテロ型(n=1)であった。従って,ABCG2 421C>Aの遺伝子多型は、スニチニブの曝露量増加と関連していることが示唆された。 従って、スニチニブのきめ細やかな投与設計の確立のためには、本研究課題で開発したスニチニブおよびその活性代謝物の同時測定法や、スニチニブの毒性との関連が示唆されたABCG2 421C>Aの遺伝子多型解析が有用であることが判明した。
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