チエノピリジン系抗血小板薬は、標的受容体であるP2Y12を不可逆的に修飾する事で薬効を発現すると考えられている。本研究は、この修飾型と非修飾型の受容体の存在比をLC-MS/MSを用いて測定可能とし、抗血小板治療のバイオマーカーとする事を目的とする。本年度はP2Y12をトリプシンまたはキモトリプシン処理により得られる、ユニークな配列のペプチド10種を還元アルキル化後、LC-MS/MSによる定量分析条件を設定した。またP2Y12の一過性発現細胞を構築した。この発現系細胞等を用いて、P2Y12のトリプシンおよびキモトリプシン消化を行い、LC-MS/MSを用いて複数の目的ペプチドを検出した。各ペプチドの定量用内部標準物質として合成ペプチドの^<18>Oラベル体を用いる事で、目的のペプチドを定量し、発現系細胞におけるP2Y12の発現量を得ることに成功した。 P2Y12は血小板の細胞膜に多量体として局在し血小板凝集作用を示すが、チエノピリジンはこれを単量体または2量体に変換する。現在、SDS-PAGEにより多量体と、単量体および二量体を分離し、それぞれをゲル内消化後、LC-MS/MSで定量する事に成功しており、この方法で、修飾されたP2Y12を定量できると考えられる。 次年度は、これまでに確立したin vitro反応由来ペプチドの定量法を用いて、ヒトまたはラット血小板などのin vivo試験由来ペプチドを定量することで、それぞれの修飾率を算出し、実際の血小板凝集作用と比較する事で、P2Y12の修飾率の抗血小板治療におけるバイオマーカーとしての妥当性を検証する。また、P2Y12と同様に抗血小板薬の標的タンパクである、COXの検出および定量法を現在検討中であり、P2Y12と同様の手法を用いて研究を遂行する。 連携研究者:鈴木洋史(東京大学医学部附属病院教授)、伊藤晃成(東京大学医学部附属病院准教授)、山本武人(東京大学医学部附属病院助教)
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