一過性心筋虚血を鋭敏に検出しうる血液生化学的診断マーカーは知られていない。そこで、急性冠症候群によって惹起される一過性心筋虚血の血液生化学的診断マーカーとして血清DNaseIを活用することを目的として本研究を実施した。 1.本年度は、特異的診断法がない非ST上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)および不安定狭心症(UAP)について、血清DNaseI活性が有効な診断マーカーとなり得るか検討した。NSTEMI/UAP患者群には急性心筋梗塞患者群と同様に胸痛発作後酵素活性レベルの一過性上昇が見られたが、対照群である胸痛発作症候群(CPS)患者ではそのような活性変動は認められなかった。特に、胸痛発作後3時間以内に来院したNSTEMI/UAP患者群の活性レベルおよび来院直後に対する3時間後の活性レベル変動率はCPS患者群に比べ有意に高値を示した。そこで、血清酵素活性レベルおよび変動率についてカットオフ値を設定したところ、胸痛発作後3時間以内のNSTEMI/UAP患者群について80%の診断感度および特異性が得られた。さらに、同患者群におけるcardiac troponin Tおよびcreatine kinase-MBの感度は45%および20%と低く、特に両マーカー陰性のNSTEMI/UAP患者群について血清DNase I活性の診断感度、特異性は89%、88%であり、NSTEMI/UAPの血液生化学的診断マーカーとしての血清DNase Iの有効性が明らかとなった。 2.Dnase Iを含め血清DNase活性を診断マーカーとして利用する場合、その正常値に影響する遺伝的因子を明らかにしなければならない。DNase familyに属するDnase I-like 3(Dnase 1I3)遺伝子内の全非同義置換型SNP 5座位うち2座位のminor alleleによって低活性型Dnase 1I3が産生されることを明らかとした。この知見はDnase I13活性レベルの遺伝的因子を明らかにするものである。
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