本研究では、疾患と関連する蛋白質翻訳後修飾を効率よく同定する手段として、多数の蛋白質について翻訳後修飾の同時複数探索系を確立することを目的としている。平成21年度は、翻訳後修飾としてリン酸化、およびアセチル化に焦点を当て、ヒトの細胞からこれら翻訳後修飾を受けた蛋白質を精製する方法を検討した。具体的には、ヒト滑膜肉腫細胞株SW982細胞の抽出液を用い、リン酸化蛋白質、もしくはアセチル化蛋白質に対するアフィニティーカラムによって、これら翻訳後修飾を受けた蛋白質の精製を試みた。その結果、2.6mgの細胞抽出蛋白質から108μgのリン酸化蛋白質が、256μgの細胞抽出蛋白質から4.9μgのアセチル化蛋白質が回収された。LC-MS/MSを用いて、カラム溶出画分中の蛋白質を同定したところ、リン酸化蛋白質画分からは、223個の蛋白質、および136個のリン酸化ペプチドが同定された。同定された蛋白質の中には、32個のリン酸化部位が報告されているLamin A/Cなどが含まれていた。アセチル化蛋白質の画分からは、28個の蛋白質、および24個のアセチル化ペプチドが同定された。同定された蛋白質の中には14個のアセチル化部位が報告されているMyosin-9などが含まれていた。また、Myosin-9およびMyosin light polypeptide 6は両画分で同定されており、これらの蛋白質がリン酸化とアセチル化を同時に受けていることが示唆された。以上、今年度の研究により、ヒトの細胞からリン酸化、アセチル化を受けた蛋白質を効率的に精製する方法を確立できた。さらに、LC-MS/MS解析により、リン酸化、アセチル化を同時に受けていると思われる二つの蛋白質の同定に成功した。今後、リン酸化、アセチル化以外の翻訳後修飾を受けた蛋白質を精製する方法を検討し、最終的に10個以上の翻訳後修飾の同時検出技術の確立を試みる予定である。
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