本研究では、疾患と関連する蛋白質翻訳後修飾を効率よく同定する手段として、多数の蛋白質について複数の翻訳後修飾の同時複数探索系を確立することを目的としている。そのためのステップとして、まず翻訳後修飾としてリン酸化、およびアセチル化に焦点を当て、ヒトの細胞からこれら翻訳後修飾を受けた蛋白質を精製する方法を検討・評価した。具体的には、ヒト滑膜肉腫細胞株SW982細胞の抽出蛋白質を用い、リン酸化蛋白質、もしくはアセチル化蛋白質に対する抗体アフィニティーカラムによって、これら翻訳後修飾を受けた蛋白質の精製を試みた。その結果、2.6mgの細胞抽出蛋白質から108μgのリン酸化蛋白質が、256μgの細胞抽出蛋白質から4.9μgのアセチル化蛋白質が回収され、これらの組み合わせにより両翻訳後修飾の同時評価が可能と考えられた。本年度、さらにLC-MS/MSを用いてカラム溶出画分中の蛋白質を同定することに加えて、従来の検出方法である電気泳動とそれに続くリン酸化検出蛍光色素もしくはアセチル化リジン抗体を用いた検出方法により、リン酸化蛋白質もしくはアセチル化蛋白質が抗体アフィニティーカラムによって十分精製されていることを検証した。その結果、リン酸化蛋白質画分からは多数のリン酸化蛋白質を示すバンドが検出された。アセチル化蛋白質の画分からは、数本のアセチル化蛋白質を示すバンドが検出された。また、蛋白質がリン酸化とアセチル化を同時に受けていることを示すバンドも、数本検出された。以上より、ヒトの細胞からリン酸化、アセチル化を受けた蛋白質が効率的に精製可能であることが示された。また、LC-MS/MSにおいても同様の結果が得られていることから、精製後、電気泳動を用いずに、LC-MS/MSのみで各翻訳後修飾蛋白質を検出することが可能であることが示された。今後、リン酸化、アセチル化以外の翻訳後修飾を受けた蛋白質を精製する方法を検討し、最終的に10個以上の翻訳後修飾の同時検出技術の確立したい。
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