研究概要 |
妊娠・非妊娠別に牛個体を把握し個別搾乳に協力可能な畜産業者から、妊娠・非妊娠の牛毎に生乳を得て、乳汁中のエーテル抽出分画のエストロゲン(E)等女性ホルモン(エストロン:E1,エストラジオール:E2,エストリオール:E3)の濃度を測定し、E感受性ヒト乳がん細胞(MCF-7)に対するE活性をE-スクリーンアッセイで検討した。牛乳中E類濃度は、非妊娠牛でE1:993±104pg/ml,E2345±51pg/ml,E3968±75pg/ml、妊娠牛でE1:1083±104pg/ml,E2:358±44pg/ml,E3:1012±70pg/mlと何れも妊娠牛でやや高い傾向を示したが有意差はなかった。E-スクリーンアッセイにおける増殖指数は、1.50±0.37とE増殖活性は陽性であった。次いで、牛乳の経口投与によるE類の影響を評価するために卵巣由来ホルモンの影響を受けない卵巣摘出雌性マウスCD1(ICR)を用いて、妊娠・非妊娠牛の牛乳および水道水を4週間投与した後、子宮重量と血清中E2およびプロゲステロン(P)濃度を測定した。子宮重量は、コントロール群、妊娠牛乳群、非妊娠牛乳群それぞれ35.1±14.2mg,27.8±4.9mg,32.0±5.4mgと差を認めなかった。また、血清中のE2濃度は、489±2.49pg/ml,4.11±3.48pg/ml,4.68±3.45pg/ml、P濃度は、1.18±0.63ng/ml,1.11±0.52ng/ml,0.90±0.19ng/mlと差を認めなかった。牛乳中のE類の濃度は、ヒトに対して行われるホルモン補充療法での1日投与量2-5mgと比較してはるかに小さな値であったが、牛乳中の全女性ホルモン様物質の活性作用を調べる手段として実施したE-スクリーンアッセイでは、増殖指数が1.5倍と増殖促進を否定できない結果であった。しかしながら、経口的に牛乳を摂取させた動物実験では、血清中のE2およびPの増加や子宮重量の増加が認められなかったことから、牛乳中には女性ホルモンが含まれ、in vivoで女性ホルモン感受性細胞の増殖活性が認められたものの、経口投与による消化吸収過程の影響により、牛乳の経口摂取による生体全体のin vivoとしては女性ホルモン作用の生体影響は認められなかった。
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