有機リン系農薬など非蓄積性化学物質による胎児への影響が強く懸念されている。ヒト影響に関する報告は限られているものの、有機リン系農薬の一つであるクロルピリホスについては、臍帯血中濃度に対し出生体重および在胎週数が負に相関することなどが海外の先行研究で示されている。この非蓄積性化学物質の影響を調べる上で、非蓄積性化学物質は生体内半減期が短く、短時間で体外に排出されることなどから、その曝露評価法に関しては明確な方法がまだ確立されていない。特に、胎児への影響については、母親末梢血や母親尿を用いた曝露評価では直近の曝露レベルの評価は可能と考えられるものの、胎児影響が懸念される長期的曝露の指標としては疑問が残る。このため、周産期における非蓄積性化学物質の曝露評価法の開発を行うため、小規模ながら生体試料を採取し、曝露評価法について比較を試みた。具体的には、妊娠女性に調査の目的と方法を説明し、書面による同意を得た後、母親の尿を出産前に3回、出産直後に1回、出産1ヶ月後に1回収集し、新生児から胎便、尿を収集した。新生児の尿は、採尿バッグと紙おむっから収集し、紙おむつは吸収剤よる抽出した。さらに母乳の収集を行った。これまでに15組の母親-新生児ペアより生体試料を収集した。採尿バッグでの胎児尿採取は、予想した通りおむつかぶれ様の副作用などが多く、採取量が0.5ml程度のケースがあり、さらになかなか採取できないなど、大規模調査には向かないことが確認された。一方、紙おむっは母親の協力を得ることで採取は容易であった。分析結果は解析中であるが、紙おむつより有機リン系農薬代謝物が検出されており、周産期における曝露評価法として有用であることが示唆された。今後は大規模調査における曝露評価法としての意義を検討すべきと考えられた。
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