研究概要 |
1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)曝露で観察されるヒト肺上皮由来A549細胞内タンパク質との共有結合と時間依存的な減少は、オートファジーの阻害剤であるクロロキン前処置で顕著に阻害された。このことは、細胞内で親電子修飾を受けたタンパク質の一部はオートファジーで速やかに分解されることを示唆している。一方、昨年度の成果より、1,2-NQにより化学修飾を受けたタンパク質の一部がグルタチオン(GSH)によりS-トランスアリル化されるタンパク質が存在することを見出した。そこで、A549細胞を事前にGSHの枯渇剤であるBSOを(前)処置してから1,2-NQを曝露し、2次元電気泳動とMALDI-TOF/MS分析で標的タンパク質を同定した。 その結果、BSO処置で1,2-NQの共有結合が増加する25.7kDaタンパク質をペプチドマスフラグメント解析した結果、ユビキチンC末端加水分解酵素Ubiquitin carboxyterminalhydrolase L1(UCH-L1)であった。非細胞系において、精製したヒトUCH-L1と1,2-NQ(100μM)を反応させると、本酵素活性は36%阻害された。同条件下において、1分子当たり2つの1,2-NQが結合しており、その結合部位はCys152とCys220であった。そこで、1,2-NQをあらかじめ結合させたUCH-L1にGSH(5mM)を反応させたところ、濃度・時間依存的に1,2-NQの結合量は減少し、消失した本活性は有意に回復した。さらに、反応上清中には1,2-NQのGSH結合体であるGS-NQの生成が認められた。以上より、UCH-L1は自身への親電子修飾を生理的濃度のGSHを利用してS-トランスアリル化を触媒するタンパク質であることが明らかとなった。
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