研究課題
ベンゼンは白血病を誘発するヒト発がん物質であるが、その発がん機構は解明されていない。一方ベンゼンは染色体不安定性や遺伝子発現の変動を誘発すると報告されており、ベンゼンのエピジェネティックな影響が示唆される。本年度は、ベンゼンがエピジェネティックな変化を引き起こすかを検討した。まずDNA中のメチルデオキシシチジン(mdC)を定量解析できるHPLCシステムを構築した。次にベンゼン発がんの標的である骨髄細胞由来のヒト白血病細胞株HL60を、代謝活性化剤(S9)の存在/非存在下でベンゼンに曝露し、細胞数、メチルシトシンへの影響を解析した。S9存在下ではベンゼンの有無に拘わらず細胞数が減少した。S9非存在下ではベンゼンの存在下で細胞数の低下が認められた。いずれの条件下でもベンゼン曝露によるmdCへの影響は認めなかった。S9非存在下でベンゼン曝露群の細胞数が低下したが再現性に乏しかったため、ベンゼン曝露条件の検討を行った。その結果、HL60を胎児ウシ血清非存在下でベンゼンに1時間曝露することにより、再現性良く細胞数が低下することが明らかになった。フローサイトメーターを用い解析したところ、ベンゼンがSubGO/G1分画を増加させること、Annexin-PI染色でapoptosis、特にearly apoptosisを誘発することが明らかになった。ベンゼンの遺伝子発現への影響をReal Time PCRで解析したところ、酸化ストレスにより発現が亢進するNrf2制御遺伝子群の発現がベンゼン曝露で充進していることが明らかになった。ベンゼンはこれまで代謝活性化され毒性を発揮すると考えられていたが、本研究結果はベンゼンが直接細胞に作用すること、活性酸素種の発生を介し細胞障害や遺伝子発現変動を誘発することを示唆するものであり、ベンゼン発がん機構、白血病発生機構の解明に繋がると期待できる。
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