研究概要 |
ベンゼンが白血病、特に急性骨髄性白血病を引き起こすことは古くから知られているが、どのような機構で白血病を引き起こすかについては、未だに明らかになっていない。昨年度の研究で、ベンゼンの標的臓器、ヒト骨髄由来細胞株のHL60にベンゼンを曝露し、アポトーシスが誘導されること、酸化ストレス応答遺伝子の発現が亢進すること、メチルシトシンは変化しないことを明らかにした。アポトーシスを誘導するには、5mMという高濃度のベンゼンが必要なこと、誘導されるアポトーシスは多くても十数パーセントであるため、本年度はベンゼン代謝産物で、かつ自動酸化により活性酸素種(ROS)を発生する1,2,4-benzenetriol (BT)をHL60に曝露し、ベンゼンによる発がん機構を検討した。 その結果、BTは曝露濃度に依存してアポトーシスを誘導すること、50μMでも約30%の細胞にアポトーシスを誘導すること、アポトーシスはmyeloperoxidase (MPO)阻害剤等で抑制されること、BTは次亜塩素酸をはじめ各種ROSを細胞内で生成すること、さらには塩素化されたDNAやタンパクを生成することが明らかになった。またMPO阻害剤や次亜塩素酸消去剤がBTによる塩素化DNAの生成を抑制することも明らかになった。一方ヒドロキシラジカルにより生成する8-オキソデオキシグアノシンはBT曝露によって増加しなかった。 MPOは骨髄細胞に特異的に発現し、塩素化DNAは遺伝子変異やエピジェネティックな変化を誘発すると報告されている。本年度の研究結果から、ベンゼンは体内で代謝されその一部がBTになり、そのBTが細胞内でROSを生成し、そのROSがMPOにより次亜塩素酸に変換され、DNA損傷を誘発し白血病を引き起こすという、全く新しくかつ説得力のあるベンゼン発がんの仮説を提示することができた。
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