研究概要 |
癌予防の実現のためには、DNAメチル化等のエピジェネティックな要因により失活した癌抑制遺伝子の発現を回復させることが重要である。近年、発癌予防に最も重要とされるp53遺伝子の下流因子GADD45が、DNA脱メチル化を促すと考えられる結果が報告された(Nature. 445, 671, 2007)。一方、私達はゲニステインやケルセチンがGADD45を誘導することを見出していた。そこで、これらのGADD45誘導食品成分がDNA脱メチル化を介して癌抑制遺伝子の発現を回復させ、癌予防効果を発揮する可能性を考えた。しかし複数の細胞株をゲニステインやケルセチンで処理し、GADD45の発現を誘導しても、DNAメチル化により失活した癌抑制遺伝子p16の発現回復はみられなかった。p53依存的にGADD45を強力に発現誘導しても、p16発現は回復しなかった。DNAメチル化阻害剤5-アザシチジン処理群では発現回復がみられたことから、GADD45を発現誘導するだけでは消失したp16遺伝子の発現を回復させるのに十分な脱メチル化は起こせないと考えられた。また、私達はヒト前立腺癌由来DU145に対しゲニステインで処理するとGADD45の発現が誘導されることを見出した。DU145や同じヒト前立腺癌由来LNCaP細胞では、GADD45自体がDNAメチル化で失活しているとする報告(Cancer Res. 69, 1527, 2009)から、ゲニステインがDNA脱メチル化を介してGADD45を誘導している可能性を考え検討した。しかし、両細胞を5-アザシチジンで処理してもGADD45発現は誘導されず、LNCaPに対してはゲニステインによるGADD45の発現誘導も観察できなかった。以上より、ゲニステインによるGADD45発現誘導はDNA脱メチル化を介さない別の細胞特異的な機構による可能性が示唆された。
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