今年度は実験的に混合比を変えた混合資料や微量資料における型判定を行って、関与人数に関するアリルピークの影響について検討を行った。まず、健常人の血液サンプルより抽出した5人分のDNAを等量ずつ混合し、キットに加えるDNA濃度が0.0125~0.5ng/μlになるように調製した試料を用いて、IdentifilerキットでDNA型判定を行った。判定結果はエレクトロフェログラムのチャートから、アリルのピーク高を読みとり解析した。また、2人のモデルをmajor contributor (MC)とminor contributor (mc)とし、その混合比率を変化させた試料を作製しDNA型判定を行い検討した。その結果、D8S1179など比較的塩基長が短いか、関与するアリルが少ないローカスにおいては、濃度増加に伴いピーク高は増加したのに対し、関与するアリル数が多いローカスにおいては、DNA量を増やしてもピーク高は増加しなくなり、反対に減少する場合も認められた。また、全く同じ試料を用いた複数回の試行でも各アリルピーク高の比率は異なっており、再現性に乏しいものもみられ、関与するアリル数が多いほど顕著になった。混合試料の分析の場合、一般に分析するDNA量が多いほど正確な結果が得られると考えやすい。しかし、今回の検討では、混合試料のDNA量を増加して検査しても、ピーク高が増加するとは限らず、ときには減少する場合が認められたため、試料中に少量しか含まれないアリルを検出しようとしても、十分に検出されるとは限らないことが示唆された。このため、検出された各アリルピークは、その真偽の判定のみにとどめて混合試料のアリルの由来を推定せず、混合試料の関与人数や尤度比計算を行う方が、ピーク高を考慮した場合よりもより現実的で偏った解釈が避けられると考えられた。
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