研究概要 |
抗精神病薬服薬者の心臓突然死は、法医剖検にても有意な所見が得られることが少ないために診断に苦慮することが多い。従って、抗精神病薬服薬時の心筋の機能的・分子病理学的変化の有無を明らかにすることにより新たな法医病理学的診断法・検査法を開発する目的で、本研究を企画した。最初に、心筋由来細胞HL-1におけるChlrpromazine(Chl)添加後の超早期遺伝子群(IEGs)の発現を確認した。ついで、Chl投与マウスの心臓におけるIEGsの発現動態について検討を行った。Chl単回投与により心臓において、c-fos、fos-B、Dusp-1、fos12の発現が増加していた。一方、c-jun、fosl1に増減は認められず、Chl単回投与ではIEGsに属する遺伝子でもそれぞれの発現に差異が生じることが推定される。また、1~4週間連日投与では、全てのIEGsにおける発現は対照と同程度であり、明らかな増加は認められなかった。従って、これらの時期での心臓におけるChl耐性の形成が示唆された。つまり、Chl継続投与により多数の遺伝子発現状態が変化していることが推測される.そこで,細胞増殖・分化・生存等に関与するJak-Statシグナル伝達経路(JSSP)に着目し,HL-1においてセミアレイ法を用いてChl投与時の発現遺伝子の選択を行い、長期Chl投与マウスにて確認したところ、BCL 2 like 1(BCL211)等8種類の遺伝子の発現が変動しており、これらはいずれもapoptosis阻害に作用するものであった。従って、長期Chl投与は心筋でのapoptosisを阻害するものと考える。今後、caspaseやcalpine等のapoptosisに直接的に関連する遺伝子の発現を検討し、抗精神病薬服薬時の心筋におけるapoptosisの有無や心筋の機能的・器質的変化を明らかにし、法医実務への応用を目指したい。
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