研究課題
糖尿病がアルツハイマー病を悪化させる機序を解明する為、アルツハイマー病マウスと糖尿病マウスを掛け合わせる手法を用いた。アルツハイマー病モデルとしてアミロイド前駆体蛋白を過剰発現したトランスジェニックマウスを採用した。一方、糖尿病はその病態の多様性を考慮して、2種類のモデルマウスを採用した。肥満を呈するob/obマウスで、食欲抑制作用を持つレプチンの欠損マウスであり、過食のために肥満および糖尿病を呈する。もうひとつは肥満が軽度であるNSYで、これは多因子が原因で糖尿病を発症すると考えられているマウスの一系統である。これらのマウスを掛け合わせて、アルツハイマー病と糖尿病を併せ持つマウスを作成した。すると我々の今回作成したアルツハイマー病と糖尿病を併せ持つマウスでは生後8週という非常に早期において認知機能が悪化していることを見出した。次にアルツハイマー病と糖尿病を併せ持つマウスにおける認知機能悪化のメカニズムを検討した。その結果、脳内全体のベータ・アミロイドは変化していなかった。しかしアルツハイマー病と糖尿病を併せ持つマウスの脳血管においては、ベータ・アミロイドが通常のアルツハイマー病モデルマウスの約2倍に増加していることが判明した。さらにアルツハイマー病と糖尿病を併せ持つマウスでは早期より、血管およびその周囲の脳組織において、炎症を増悪させていることがわかった。よってこれらのことがアルツハイマー病と糖尿病を併せ持つマウスにおける認知機能の低下の機序のひとつと考えられる。一方で、インスリン・シグナリング(インスリンの細胞内情報伝達機構)の脳内での役割が近年、注目されている。我々のアルツハイマー病と糖尿病を併せ持つマウスではこのインスリン・シグナリングが低下していた。このことが認知機能に何らかの影響を与えていると考えられた。
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