漢方医学における診断・予後判定のために必要な基礎的情報である漢方医学的所見は、未だ科学的に解明されていない。本研究は漢方医学的所見にどのような診断的意義があるのか、また予後判定機能があるのかを検証するための本邦初の横断研究、前向きコホート研究である。 これまでに、2つのコミュニティの高齢者を対象に、対象者の基本情報と、現代医学的疾病の情報、漢方医学的所見の情報を収集し、漢方医学的所見と現代医学的疾病についての関連性を検討する横断研究を実施した。 本年度は、本研究を軌道に乗せる期間として、次の工夫・準備を行った。すなわち、漢方医学的所見は経験の集積によって項目や評価方法が決定されてきたため各医師により所見の採取項目、採取方法、評価方法にばらつきが生じている。我々はこれらの平準化を図るために漢方医学の専門家である医師9名をメンバーとしてプロジェクトチームを結成し、議論を重ね、どのような漢方医学的所見を解析対象とするのか(項目の選択)、それぞれの所見の有無をいかに判断するのか(判断基準の決定)、実際の判断が医師間で異ならないようにするためにどのような方策を講じるのか(採取方法の統一化)を決定した。最終的には、冊子「漢方医学的所見のとり方」を公表し、「漢方診察研修会」を開催した。さらには、通常診療に平準化を取り入れるために、現行カルテの改変および新カルテ作成まで作業が発展した。前向きコホート研究に関しては、567名の対象者の健康状態を調査し、202名において(1) 生存(2) 新規疾病罹患(3) 既存疾病症状変化(4) その他に関する情報の変化を確認した。前向きコホート研究の研究期閥は、平成30年までの10年間を目途としている。 本研究により特定の漢方医学的所見に、診断極値、予後判定機能が見いだされれば、漢方医学の診断ガイドライン作成に道が開け、漢方医学的介入による疾病予防にもつながる可能性がある。
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