漢方医学における診断・予後判定のために必要な基礎的情報である漢方医学的所見は、未だ科学的に解明されていない。本研究は漢方医学的所見にどのような診断的意義があるのか、また予後判定機能があるのかを検証するための本邦初の横断研究、前向きコホート研究である。 第一段階として漢方医学の専門家である医師9名をメンバーとしてプロジェクトチームを結成し、どのような漢方医学的所見を解析対象とするのか(項目の選択)、それぞれの所見の有無をいかに判断するのか(判断基準の決定)、実際の判断が医師間で異ならないようにするためにどのような方策を講じるのか(採取方法の統一化)を決定した。 第二段階として漢方医学的所見が西洋医学的にどのような診断価値を有するのかを高齢者コホートを対象にした横断研究で検討した。第三段階として、漢方医学的所見が、生命予後や疾病予後判断においてどのような意義を有するのかを上記コホートを追跡して検討する前向きコホート研究を実施中である。 これまでに、2つのコミュニティの高齢者を対象に、対象者の基本情報と、現代医学的疾病の情報、漢方医学的所見の情報を収集し、漢方医学的所見と現代医学的疾病についての関連性を検討する横断研究を実施した。 本年度は、前年度に引き続き、567名の対象者の健康状態を調査し、(1)生存(2)新規疾病罹患(3)既存疾病症状変化(4)その他に関する情報の変化を確認した。近隣医療機関に入院・転院した対象者については、各医療機関に情報提供を依頼して追跡している。現在、99%以上の高い追跡率を維持している。なお、前向きコホート研究の研究期間は、平成20年から平成30年までの10年間を目途としている。 本研究により特定の漢方医学的所見に、診断価値、予後判定機能が見いだされれば、漢方医学の診断ガイドライン作成に道が開け、漢方医学的介入による疾病予防にもつながる可能性がある。
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