マイクロRNA(miRNA)は長さ23塩基程度の低分子RNAで、ヒトでは数百種類が同定されている。最近、血球成分を除いた血漿中においても検出可能なmiRNAが存在することなどが明らかとなり、その組織・細胞特異性などから、血漿miRNAを疾患バイオマーカーとして利用することが期待されている。本研究では、血漿miRNAが虚血性心疾患をはじめとする循環器関連疾患のバイオマーカーとして有用か検討することを目的としている。 本計画初年度は主に、(1)血漿RNA成分の精製と血漿miRNAの測定に関する基礎検討、(2)循環器関連疾患のバイオマーカーとして有望な心筋等組織特異的に発現しているmiRNAの検索、及び(3)ラットの心筋梗塞モデルを用いての心筋由来血漿miRNAの測定等を行った。その結果(1)血漿100-200uLを用いてガラス吸着法を基礎とする方法で精製したRNA画分を用いることで、リアルタイムPCR法による血漿miRNAの測定が可能である事等がわかった。(2)アレイを用いてラット各組織における約600種類のmiRNAの網羅的発現解析を行った結果、ラット心臓ではmiR-208aの特異性が非常に高くバイオマーカー候補として有望であること等が明らかとなった。(3)βアドレナリン受容体のアゴニストisoproterenol投与によるラット心筋梗塞モデルを作成して血漿miR-208aの測定を行ったところ、投与約3時間後から血漿におけるmiR-208aの有意な増加を認めた。尚、正常ラットにおける血漿miR-208aは検出感度以下であった。血漿miR-208aは投与12時間後まで増加し、この時間曲線は心筋梗塞のバイオマーカーとして既に用いられているTroponinIとほぼ同様であった。一方、TroponinIは投与24時間後も増加していたのに対し、投与24時間後の血漿miR-208aは減少傾向にあった。眼球等他の組織由来のmiRNAのうち正常ラット血漿中においても検出されるmiRNAをコントロールとして観察したが、増加は認められなかった。以上よりmiR-208aは少なくともラットにおいては心筋梗塞のバイオマーカーとして有用である可能性を示す結果を得た。次年度は、ヒト臨床サンプルを中心に検討を進める。
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