肺胞蛋白症は肺胞内にPAS染色陽性のサーファクタント様物質が蓄積し呼吸不全に至る疾患である。GM-CSFあるいはその受容体遺伝子の欠損マウスが類似の病態を発症すること、患者血清中に抗GM-CSF抗体が証明されることなどから、GM-CSFによって肺胞マクロファージの成熟過程に障害がおこることで肺胞マクロファージが機能異常をきたし、肺胞腔内から余分なサーファクタントを除去できずに貯留することが病因と考えられている。 本研究で着目した転写因子T-betはTh1細胞の分化誘導を司るマスターレギュレーターとして知られている。今回我々はT-betの過剰発現が肺胞蛋白症に類似する病態を引き起こすことを見出し、その機序について検討した。ホモ型T-betの過剰発現(T-bet-tg)マウスは出生、繁殖は正常であったが、無菌環境下で何の刺激を加えなくとも生後15週くらいより死亡し始め、50週には大半のマウスが死亡した。気管支肺胞洗浄液はコメのとぎ汁用外観を示し、肺組織で肺胞領域にPAS陽性、SP-B抗体陽性の滲出物を認めた。T-bet-tgマウスの肺組織では野生型と比較してGM-CSFやその受容体の発現はむしろ増強しており、ヒトで示唆されているGM-CSFシグナリング異常以外の発症機序が推察された。T-bet-tgマウスでは造血前駆細胞による未成熟な単球/マクロファージの分化誘導が亢進していたことから、GM-CSF/M-CSFの不均衡による単球/マクロファージの分化成熟異常を考えた。T-bet-tgマウスの骨髄細胞に対してin vitroでM-CSFを投与したところ、その異常が是正されたことより、T-betの過剰発現によるGM-CSF/M-CSFの不均衡が肺胞蛋白症の発症機序の一因である可能性が示唆され。今後はT-bet-tgマウスに対してM-CSFを投与し、肺胞蛋白症類似の病態を抑制し得るかを検討する予定である。
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