我々は、孤発性ALS患者運動ニューロンで見られるdynactin1の発現低下を再現するノックダウン細胞(SH-SY5Y)モデルを構築し、病態解析を行ってきた。このモデルにおいては、autophagosomeの形成が亢進していることをLC3の発現上昇により明らかにしている。しかし、この現象はオートファジー機能が亢進している場合のみならず、autophagosome形成以降、すなわちlysosomeとの癒合によるautophagolysosomeの形成が阻害され、機能が障害されている場合にも起こりうる。このことを明らかにするために、autophagolysosomeのマーカーとしてのMDC(monodansylcadaverine)、lysosome membraneのマーカーであるlgp85および1gp120を用いて検討を行った。この結果、autophagosomeの微小管依存性の移動に障害を来たし、autophagolysosomeの形成が障害されている可能性が明らかとなった。ポリグルタミン病など他の神経変性疾患モデルにおいては、オートファジーの促進による異常タンパク分解が治療につながることが示唆されている。そこで、dynactin1ノックダウン細胞に、オートファジーを促進するrapamycinを加えたところ、細胞生存には影響を及ぼさなかった。この一因として、dynactin1の発現低下状況下では、autophagosome形成のレベルにおいて作用する薬剤を加えても、autophagolysosomeの形成が起こらないためと推定された。一方、dynactin1ノックダウン細胞において、プロテアソーム阻害剤を加え、ユビキチン陽性封入体形成の条件を探ったが、少なくともSH-SY5細胞においては封入体形成が見られなかった。今後、細胞種を変えた他の各種ストレスを加えた検討を行う必要があると考えられた。
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