1)我々は既に、脂肪組織stromal-vascular fraction(SVF)を含有するマトリゲルをマウスの皮下に移植することにより、生体における脂肪細胞新生を再現する実験系を確立している。この際、脂肪萎縮症A-ZIP/F-1マウスをrecipientとして用いると成熟脂肪細胞への分化が明瞭に認められたが、C57BL/6Jマウスを用いた場合には脂肪細胞分化をほとんど認められなかったことより、成熟脂肪細胞が脂肪細胞分化抑制因子を産生している可能性が示唆された。また、肥満の進展過程において、脂肪細胞の肥大化とともに脂肪細胞新生が重要と考えられている。FACSを用いて、脂肪組織SVFにおける前駆脂肪細胞マーカーPref-1陽性細胞の比率を検討したところ、脂肪組織部位によりPref-1陽性細胞の存在比率に大きな差異を認めた。 2)我々は既に、脂肪細胞の肥大化過程におけるMAPK phosphatase-1(MKP-1)の発現低下が、MAPキナーゼの活性化を介して脂肪細胞の炎症性変化を誘導することを明らかにしている。一方、脂肪細胞分化の過程においてMAPキナーゼの活性化が重要であり、ERKやJNKを欠損するマウスは肥満に対して抵抗性を示すことが知られている。本研究では、脂肪細胞におけるMKP-1の機能的意義を明らかにするために、脂肪細胞特異的にMKP-1を過剰発現するトランスジェニックマウス(MKP-1Tg)を作製した。このマウスの脂肪組織では野生型マウス(WT)と比較してMKP-1タンパク質発現が増加しており、MAPキナーゼの活性低下が認められた。標準食飼育下では、MKP-1TgとWTの体重、脂肪組織重量と随時血糖に有意差は認められなかった。高脂肪食負荷においても、MKP-1TgとWTには体重、脂肪組織重量と随時血糖に有意差を認めなかったが、インスリン負荷試験において、MKP-1TgではMKP-1の発現量依存的に高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性の改善が認められた。以上より、MKP-1Tgでは肥満により誘導される脂肪組織の炎症性変化とインスリン抵抗性の改善が認められた。
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