研究概要 |
本研究の目的はHDACの調節による糖代謝制御機序を解明、さらに糖尿病への効果について検討し、HDACの調節が新たな糖尿病治療のターゲットとなるかを探ることである。 1. 脂肪組織、骨格筋におけるインスリンによる糖取り込みに対するHDACの影響の解析 100nMのHDAC阻害薬にて24時間処理した脂肪細胞株3T3-L1細胞や骨格筋L6細胞においてインスリンによる糖取り込み作用が有意に増加した(3T3-L1にて33.3%増加,p<0.05)。しかしInsulin receptor (IR), insulin receptorsubstrate-1 (IRS-1), Aktの発現量やリン酸化には有意差を認めなかった。 2. 干臓における糖新生やグリコーゲン代謝の分子メカニズムに対するHDACの影響の解析 100nMのHDAC阻害薬にて72時間処理した肝細胞株HepG2細胞において糖新生の律速酵素であるphosphoenol pyruvatecarboxykinase (PEPCK)の発現が有意に抑制された(61.7%減少,p<0.05)。さらにPEPCKの転写制御に関わる転写因子hepatocyte nuclear factor 4α (HNF4α)の発現量が減少し,forkhead box 0-1(Fox01)のリン酸化が上昇(Fox01の活性の低下)した。Glycogen synthase kinase3やglycogen synthaseの発現量やリン酸化には有意な変化を認めなかった。 以上より脂肪組織や骨格筋において,HDACはインスリンによる糖取り込みを亢進させていること,肝細胞においてHDACは糖新生を抑制している可能性が示唆され、HDAC阻害薬によりインスリン感受性組織での糖代謝が改善される可能性があることが示された。
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