研究概要 |
本研究の目的はHDACの調節による糖代謝制御機序を解明,さらに糖尿病への効果について検討し,HDACの調節が新たな糖尿病治療のターゲットとなるかを探ることである。 1)糖尿病モデル動物の糖代謝に対するHDAC阻害薬の影響の解析 高脂肪食負荷糖尿病モデルマウスにHDAC阻害薬を投与した結果,空腹時血糖の低下,インスリン負荷試験,ピルビン酸負荷試験における血糖の有意な低下を認め,HDAC阻害薬によるインスリン感受性改善効果,肝臓での糖新生抑制効果が示唆された。 2)肝臓の糖新生に関わる分子シグナル伝達経路に対するHDAC阻害薬の影のin vivoレベルでの解析 HDAC阻害薬を投与した糖尿病動物モデルの肝臓において,糖新生の律速酵素であるphosphoenol pyruvate carboxykinase (PEPCK)の発現が有意に抑制された。さらにPEPCKの転写制御に関わる転写因子hepatocyte nuclear factor 4 α (HNF4α)の発現量が減少し,インスリン刺激によるAktのリン酸化,forkhead box 0-1 (Fox01)のリン酸化が上昇(Fox01の活性の低下)した。以上よりHDAC阻害により,HNF4αの発現量減少、Fox01のリン酸化上昇を介してPEPCK発現低下,糖新生を抑制していることが示唆された。 3)肝臓での糖代謝に関連するHDACのアイソフォームの同定 siRNA法によりHDAC1,2,3の発現を抑制したHepG2を解析した結果,HDAC1のノックダウンでPEPCKやHNF4αの発現抑制を認めた。 以上より肝細胞においてHDAC阻害により糖新生が抑制されている可能性が示唆され,HDAC阻害薬により糖代謝が改善される可能性があることが示された(Biochem Biophys Res Commun.404;166-172,2011)。
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