造血幹細胞、癌幹細胞研究を進めるためには、幹細胞同定のためのアッセイ系の確立が必須である。これまで、ヒト造血幹細胞のアッセイ系として種々の重症免疫不全マウスを用いた異種移植の系が開発されてきた。いずれもT、B細胞を欠損したNOD/SCIDマウスを基本として、さらに免疫不全のための修飾を加えたものである。L2RγをノックアウトしたIL-2Rg^<nul1>-NOD/SCID(NOG)ストレインでは、ヒト造血細胞の生着効率や多系統への分化能が著しく改善されたが、欠点のひとつは、繁殖能力が弱くラインの維持が難しいことである。そこで、まずC57/BL6バックグランドで、なおかつNOGラインを越える異種免疫寛容の導入を目指した。マクロファージ上に発現するSIRPAとそのリガンドであるCD47との結合は自己認識に用いられているが、我々は、NODライン特有の異種移植片寛容の原因がSIRPA遺伝子多型にあり、ヒトCD47とレシピエントマウスSIRPAの結合強化によりNODバックグラウンドを超える異種移植寛容の導入が可能であることを見出した。今年度は、C57/BL6バックグランドでRag2およびIL2Rgを欠損したマウスに、NOD型SIRPA変異を導入した免疫不全マウスB6.Rag2^<null>IL2Rg^<null>SIRPA^<NOD/NOD>ラインを確立した。このRAGマウスにおいては、T細胞のleakがなく、さらにB6ラインであることから、良好な異種細胞生着能力に加え、高い生存・繁殖能力が期待できる。次年度では、異種細胞生着効率の検証を行う。さらに、マウスマクロファージによるヒト移植片寛容を強化するために、SIRPA遺伝子多型の解析を平行して行っている。我々は、今年度、SIRPA蛋白立体構造解析により、ヒトCD47と強く結合するためのSIRPA変位部位を計3ヶ所見出しており、その変位をすべて導入した人工的ヒト型SIRPAマウスの作成を開始している。
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