研究課題
本研究で「マラリア原虫は自らの増殖に、宿主であるヒトのmicroRNAを利用している。」との作業仮説を立て、ヒト赤血球microRNAのマラリア原虫の増殖に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。microRNAはタンパク質をコードしていない短いRNAであり、標的遺伝子のmRNAを阻害して遺伝子発現を負に制御している。マラリア遺伝子を制御するヒトのmicroRNAの発見、治療への応用を目指して研究を展開した。研究では、1)マラリア原虫はヒト赤血球に感染する寄生虫であり、ヒトmicroRNAとマラリア原虫遺伝子の関連を研究した。ヒト赤血球内microRNAをアレイ解析および核酸増幅法により解析し、多くのmicroRNAが循環赤血球に含まれていることを明らかにした。2)ヒト赤血球内microRNAはRNA分解酵素であるAgo2タンパクと結合しており、標的遺伝子のmRNAを分解し遺伝子発現を制御できることが明らかとなった。3)バイオインフォマティクスを用い、ヒト赤血球内microRNAの標的遺伝子をマラリア原虫DNAデータベースにより抽出した。4)遺伝子異常による先天性溶血性貧血であるサラセミア(地中海貧血)は、マラリア感染への抵抗性を持っている。サラセミア患者と正常のmicroRNAの差が、マラリア感染を抑制していると考え、サラセミア患者赤血球系細胞内microRNAを解析した。サラセミア患者はmicroRNA発現異常を示すことを明らかにした。これらの成果により、ヒト循環赤血球は活性のあるmicroRNAを含有しており、マラリア原虫の遺伝子発現を制御する可能性があること、遺伝子異常による発症しているサラセミア患者は、正常者とことなるmicroRNAを含有しており、結果としてマラリア感染への抵抗性を獲得している可能性があること、が示された。本研究のこのような成果は、新しいマラリア感染症の治療法・予防法の開発に重要な基礎的研究と考えられ、今後、具体的な治療法開発を目指した研究の発展が強く望まれる。
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