本年度は、全身型Cdk15ノックアウト(KO)マウスの、脳形態、皮質層構造、海馬構築、軸索・樹状突起微小形態につき詳細な解析を行った。海馬神経細胞分散培養、大脳スライス標本のゴルジ染色、更にCdk15 KOマウスとThy1-GFPトランスジェニックマウスの交配により神経細胞をGFP標識したマウスの大脳スライス標本の共焦点レーザー顕微鏡撮影により、樹状突起スパインの形態・数の詳細な解析を行い、Cdk15 KOマウス神経細胞樹状突起の変化を同定した。更にCdk15 KOマウスの海馬スライス電気生理学的解析及び、KOマウスのテストバッテリーを用いた網羅的行動解析を開始し、それぞれの解析結果に異常を認めた。 また、yeast two-hybridスクリーニングを用いたCdk15相互作用分子の網羅的探索により得た21の相互作用因子候補のうち、機能重要と考えられる複数の因子(イオンチャンネル、微小管結合蛋白、モーター蛋白、シナプス蛋白)について、マウス脳溶解物を用いた共免疫沈降、GST標識組換え蛋白を用いたpull-downアッセイ、更にin vitroキナーゼアッセイを行った。その結果、新規のCDKL5リン酸化基質及び相互作用蛋白を同定し、更にその相互作用による機能解明を行った。 これらの研究成果から、Cdk15の樹状突起スパイン形成制御に関する機能が確認され、この機能不全が、CDKL5遺伝子変異に伴う神経発達障害の分子基盤であることが示唆された。また、CDKL5相互作用蛋白の同定と解析により、新規の神経細胞骨格蛋白、イオンチャンネル分子、シナプス蛋白との相互作用、リン酸化による修飾作用が示され、CDKL5変異による病態にこれらの機能不全が関与する可能性が示唆された。これらの新規知見により、CDKL5の分子機能と遺伝子変異による病態機序の解明へ新たな進歩が得られた。
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