治療抵抗性うつ病に対する新たな脳刺激療法の1つとして注目されている反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)の有効性と中枢ドパミン機能に与える影響について検討した。ドパミン機能については、内在性のドパミン合成を測定する放射性薬剤L-[β-11C]DOPAを用いた陽電子断層法(PET)により測定した。左の背外側前頭前野に対する1日1回10日間のrTMSを8名(男女4名ずつ:平均年齢±標準偏差=36.8±6.4歳)のうつ病患者に施行した。PET検査は最初の刺激の前と最後の刺激の1日後にそれぞれの患者に実施した。8名中4名がrTMSに反応したが、左右被殻および淡蒼球のドパミン合成速度は変化を示さなかった。以上の結果は、rTMSがうつ病治療に有効ではあるものの、これまで報告された急性効果とは異なり、rTMSのドパミン系に与える慢性的な効果が限定的であることを示唆している。また、経頭蓋直流刺(tDCS)については、臨床応用のための基礎的検討を進めており、健常成人に対して左背外側前頭前野を1mAで20分間の陽極刺激、陰極刺激または模擬刺激を行い、近赤外線スペクトロスコピー(光トポグラフィー)装置により脳血流の変化を測定している。当初刺激中の血流変化を測定することを計画したが、実行に困難を伴うため、うつ病患者で異常が報告されている言語流暢性課題中の血流変化を刺激前後で検討している。これまでのところ一定の傾向は得られていない。今回の研究においても有害事象は認められなかったので、臨床応用のためのさらなる検討を続ける予定である。
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