うつ病の新たな治療法として期待されている反復性の経頭蓋直流刺激(tDCS)の健常成人の気分と認知機能に与える影響を検討した。対象は12名の男性で年齢は22±2.2(平均±標準偏差)歳だった。気分の変化については6項目からなるProfiles of Mood States(POMS)短縮版を用い、認知機能については5つの課題からなるCogHealthを用いてそれぞれ評価した。tDCSの刺激条件は、左背外側前頭前野に対し1mAで20分間の陽極実刺激を1日1回4日間連続で行い、これと同部位に対する偽刺激をクロスオーバー法で比較した。陰極は右の眼窩上面に設置し、実刺激と偽刺激の間隔は3日間とした。POMSとCogHealthによる評価は、刺激開始前、前半の4日間刺激直後および後半の4日間刺激直後の3回行った。POMSの基礎値が高い1例を除いた11名を2群に割り付け、検査結果を時間、刺激の順番、刺激の種類について繰り返しのある分散分析で解析した。POMSの下位項目については、有意な変化を認めなかった。CogHealthについては、視覚性再認記憶を評価するOne Card Learning課題の正答率のみが時間とともに有意に上昇し、実刺激で開始した群で変化が顕著であった。刺激の種類による差はなかった。以上の結果により、今回の刺激条件による反復性tDCSは気分や認知機能に悪影響を与えないことが示された。また、視覚性再認記憶を高める可能性が示唆された。特別な有害作用を認めなかったことから、tDCSを精神障害の治療法としてさらに検討を進めることに問題はないと考えられた。
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