放射線のリスクを考える時、被曝後の処置によって誘発され得る障害を軽減化できるかどうかは重大なことであり、癌の放射線治療時だけでなく事故やテロによる放射線障害を抑制するためにも有効な手段となり得る。これまでに5~10Gyの放射線による障害に対しては骨髄移植が有効であることが示されているが、それ以上の線量についてはまだ分かっていない。ヒトでもマウスでも10~100Gyの放射線を全身に受けると腸死となるが、本研究では幹細胞移植によってこの腸死を軽減化することができないかについてマウスを用いて解析している。本年度(H21年度)は以下の3点を明らかにした。(1)蛍光蛋白EGFPを発現しているマウスの骨髄細胞を15Gy照射した同系統のマウスの尾静脈から注入すると小腸クリプト部位に蛍光をもった細胞が生着すること、(2)注入は照射直後に行うよりも照射後18時間経過後に行う方が生着率が高くなること、また(3)2ヶ月齢の成獣マウスの骨髄細胞の移植よりも18日令胎仔の小腸細胞を用いた方がより多くの細胞が小腸に生着する。ただしこの場合、細胞の生着部位が小腸の位置(近位と遠位)によって異なる可能性が示唆された。これらの結果は放射線による腸死を胎仔の小腸幹細胞あるいはそれに類似した幹細胞を移植することによって治療するあるいは軽減化できる可能性を示唆するものであり、今後さらに小腸からの細胞の分離法を改良するとともに、細胞移植によって実際に個体レベルでの腸死をどれ程軽減化できるかを解析してゆきたい。
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