本研究は我々が従来進めてきた組織幹細胞研究を応用して癌幹細胞の同定およびその起源を検証するとともに、癌治療への応用を目指した癌幹細胞の特性解析を目的とする。 我々は膵癌幹細胞マーカーとして、胎生期前腸内胚葉に発現するアルファフェトプロテイン(AFP)に着目した。ヒト膵癌細胞株にAFPの発現により蛍光を発する遺伝子を導入した。2種類の細胞株で蛍光を発する細胞がごく少数存在することを確認し、これをフローサイトメーター(FACS)を用いて単離することに成功した。単離培養したAFP陽性細胞に、癌幹細胞を定義する3つの性質(自己複製能、分化能、腫瘍形成能)があることを証明した。また、この膵癌幹細胞には膵癌治療に用いられる2種の抗がん剤(5-FU、ジェムザール)に対する耐性があるごとを実証し、このメカニズムとして薬剤輸送体のひとつであるABCA12が関与している可能性を見いだした。また臨床検体においても膵癌組織中にAFPを発現しているものがあることを確認した。これにより今後の膵癌治療における予後予測因子、また治療の標的としてAFPが有用である可能性があることが示された。
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