本研究の目的は、微量癌細胞を検出するため、独自に開発したナノ構造体である人工ウイルスを用いて癌細胞特異的に人工マーカーを血中/尿中に放出させ検出・定量することによる早期診断を開発することである。本年度、我々は以下の1-3の研究を行った。1.人工マーカーの作成および生体内安定性の評価:人には存在しない配列を有する人工マーカーの候補として3つのオリゴマーカーを作成した(M1、M2、M3)。このマーカーに対するreal-time PCR用primerをproduct sizeが長くならないように設計した。しかし、これらM1-3は人由来血中における安定性が低かったため、現在M1-3を化学修飾により安定性を上げる工夫を行っており、それを用いれば良好な結果が期待できるものと考えられる。2.癌特異的人工ウイルスの改変:我々は、膵臓癌を念頭に癌特異的標的マーカーの選択とそれに対するアンテナ分子の作成を行った。MUC1、c-Met、EGFR等を標的とするアンテナ分子を合成し、人工ウイルスにアミド結合を介して付加した。これらの人工ウイルスが癌細胞のみに特異的に取り込まれ、癌細胞特異的人工ウイルスの作成に成功した。3.人工ウイルスへの人工マーカーの内包:現在人工マーカーの安定性が得れていないため、まず内包化モデルとして膵癌治療薬であるゲムシタビン(GEM)を用いて内包化試験を行った。まず内包化最適条件の検討を行い、24量体を形成する人工ウイルス1つに対して約11モルのGEM内包化に成功した。この内包化条件を用いれば、同様に人工マーカーM1-3の内包化も可能と考えられる。これらの結果をふまえ、次年度はM1-M3の安定化マーカーが得られ次第、本年度作成した癌特異的人工ウイルスにGEM同様に人工マーカーを内包する。また、このようにして作成した新規人工ウイルスをin vitro、in vivoで機能評価する。
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